空と鳥

 

 アメリカで話題のベストセラー、翻訳書が刊行されていたので読み始めました。ちょうど終盤にさしかかったところですが、このまま最後まで一気に読みたいけれど、読み終わるのが惜しい、もっと読んでいたい……読んでいて、そんな気持ちになりました。

原書はこちら。

 

 

When Breath Becomes Air by Paul Kalanithi

 

こちらがその翻訳書。

 

いま、希望を語ろう

『いま、希望を語ろう』 

ポール・カラニシ:著 田中文:訳

出版社の作品紹介ページ→早川書房

 

 原書と日本語のタイトルが大きく変わっている点、おそらく賛否両論あるでしょうが、わたしは邦題も素敵だと思いました。"When breath becomes air"は、「吐息が空気に変わるとき」すなわち「命あるもの」だった息が、単なる空気となってしまったとき、と「生と死」を暗示しているフレーズだと解釈しています。邦題は原題とまったく異なるといえばそうなのですが、ここまで読む限りでは、著者のポールさんは「死のなかに生を見ていた」と感じたので、そういう意味からも日本語の「希望」という言葉を使うのは間違いではない気がします。まさに、希望を語っているわけなので。

 ポールさんが最初は医学ではなく、文学を学んでいたというところが、文章にも如実に表れています。随所に文学からの引用や、それ自体が文学(詩)とよべるような言葉が散りばめられています。彼は「生物学と、道徳と、文学と、哲学はどこで交わるのか?」という疑問の答えを得ようとして、初めは文学のほうからアプローチしていたわけですが、やがて「真の生物哲学を追及する」ためには「直接体験」が不可欠であるという結論に至り、生死と直接かかわる医学(脳神経外科)の道に進みます。そしてがんに蝕まれ、それまでは患者のものであり、医師として傍らで寄り添う立場であった「死」が自分のものとなったとき、ふたたび文学の世界に戻っています。そこに、文学の意義、意味を感じました。ポールさんも本書でこう言っています。

死の意味を理解するための言葉を、自分という存在を定義して、ふたたびまえに進む方法を見出すための言葉を探した。直接体験という特権を得たことによって、文学作品からも、学術的な著作からも離れていたのだけれど、今では、直接体験を理解するにはそれを言語に翻訳しなければならないと感じていた。(中略)前進するために、私は言葉を必要としていた。

 何かを書き記すこと、言葉を綴ることは(そしてそれを読むということも)、生きていることの証なんでしょうね(ということは、このブログもある意味わたしの「生存証明」になるのか……)。それにしても、文学の意味を、医師が書いた回想録のなかに見つけることができるとは……意外な出会いでした。

 原文を読んでいないのでなんですが、翻訳がとても読みやすく、おそらく原文で表現されていたであろう、ポールさんの生きるということへの真摯な姿勢や、ひとつひとつの言葉を大事にする気持ちが、翻訳に反映されているのがわかります。エッセイや回想録といったたぐいの作品を訳したことはないのですが、訳者が自分の主観に流されず、かつ、原文から感じとった印象を大事にして、訳者自身の言葉で表現する、ということが、ほかのジャンル以上に求められるのではないかと思いました。

 今日はここまでにして、エピローグは明日読むことにします……。

絵葉書

 

 何を調べていたのかは記憶にありませんが、Amazonでおすすめされたこちらの作品を読みました。

 

その姿の消し方

 

『その姿の消し方』 

堀江敏幸:著

出版社の作品紹介ページ→新潮社

 

 美しい言葉やフレーズが、文学という海のなかをゆらゆらと揺れている。そのなかに浸っているのがとても心地よかった。そんな読後感でした。いくつも、胸に残る・響く言葉と出会えましたし。たとえば、こちらの「読むという行為」についての語り手の解釈というか、思いを綴った文章。

読むという行為は、これはと思った言葉の周囲に領海や領空のような文字を置いて、だれのものでもない空間を自分のものにするための線引きなのかもしれない。詩でも散文でも、この方向で答えを見出そうと読みを重ねているうち、差し出されている言葉のすべてが、しだいにいわくありげな、解釈につごうのよい顔つきになってくる。言葉が思念を誘い出すのではなく、こちらが言葉に幕を掛けたり外したりしながら錯覚を生み出そうとしているだけなのに、私たちはそれをしばしば高尚な読みと称して納得しようとする。

 読むということだけじゃなく、これは出版翻訳にもあてはまることなのかな、と感じました。翻訳をしているとき、作者が書いた言葉を読んで、無意識のうちに、自分の解釈にその言葉を、そして訳文を寄り添わせようとしているんじゃないかと。言葉のうしろにある(作者の、あるいは登場人物の)思念を読み取ろうと努力をするのですが、気づけばこちらの思念に言葉(訳文)を引き寄せようとしてしまっている。そしてその翻訳が活字になって、だれかの目に触れたとき、また同じことが起こるのでしょう。

 翻訳という行為は、翻訳者が原書を読むなかで得た錯覚(その言葉が当初書かれたときに、そこにあったであろう思念をつかんだという錯覚)に頼るしかない。あきらかな錯覚(誤訳)を避け、作品やその言葉の真意に限りなく近い錯覚を感じとるには、どうすればいいんでしょう。読めば読むほど、違う方向へと思念が離れていってしまうこともあるわけで……。本当に難しいです。

 

 この作品には詩が登場するのですが、それがまたなんともいえず、不思議な雰囲気と味わいを持っています。詩って、とっつきにくいな、と敬遠しがちなのですが、だからこそ、その言葉から感じる印象や感覚を素直に味わえる文学の形態なのかもしれません。言葉がそのまま体に入ってくる感覚が味わえます。

本と花

 

 先日読んで、あまりにおもしろかったので、リーディングの練習にとレジュメを書き始めた作品。とっくに版権が動いていて、翻訳版が出版されるようです!

 

渇きと偽り

 

渇きと偽り 

ジェイン・ハーパー:著 青木創:訳

出版社の作品紹介ページ→早川書房

 

↓原書はこちら。

 

The Dry by Jane Harper

 

 自分が目をつけた作品の翻訳版が出版されるのは、とてもうれしいのですが、レジュメを書いていたところなので、ちょっとせつない感じも……。別に持ちこもうとか考えていたわけではないのですが。

 こちらの作品も、原書が気になっていたところ(結局、通しで読めていないですが)、翻訳版が出ました!

 

 

完璧な家』 

B・A・パリス:著 富永和子:訳

出版社の作品紹介ページ→ハーパーコリンズ・ジャパン

 

 

Behind Closed Doors  by B.A. Paris

 

 こういうふうに、本国でベストセラーになっていたり、評判の良い作品が、翻訳されて日本でも出版されていくのを見ると、出版翻訳者としてやっていきたいと考えている者としては、とてもうれしい気持ちです。出版業界(とくに翻訳もの)は厳しい、と常々耳にしていますが、捨てたもんじゃないですね! 2作とも、読むのが楽しみです! 心して読みます!

(とりあえず、リーディングは別の作品を選びなおそう……。)

ダックスフント

(以前、この写真の子と同じロングヘアーのダックスフントを2頭飼っていました。レッドと、ブルーダップルという、とても珍しい毛色の子でした。)

 

『おやすみ、リリー』のモニターに当選し、刊行に先駆けて読者になる機会をいただきました。ハーパーコリンズ・ジャパンさんに感謝いたします!

 

おやすみ、リリー

 

おやすみ、リリー』 

スティーヴン・ローリー:著 越前敏弥:訳

 

 ハーパーコリンズ・ジャパンより2017年4月刊行(画像はハーパーコリンズ・ジャパンの特設サイトからお借りしました。)

 本作を知ったのは、原書をGoodreadsで見て、読んでみたいなと思ったのがきっかけでした。

 

 

Lily and the Octopus by Steven Rowley

 

 Goodreadsの"Choice Awards 2016"のフィクション部門にノミネートされていて、表紙のダックスフントのイラストに(犬好きなら当然?)思わず目がいきました。そのときは、この作品が日本語で読めるなんて思いもしませんでした!「愛犬の死」というテーマと、Goodreadsで星5つつけていた方のレビューの「泣くってわかってた!」というコメントを見て、「読んだら泣く」予感はしていたのですが……。

 

 結局、まんまと泣いてしまいました。泣いたなんてものじゃない。号泣でした。本を読んで泣くことは結構(年々それが増えている気がします……)あるのですが、ここまで泣くことはめったにないです。わたしが愛犬家で、足元にはすやすやと寝息をたてているわんこがいて、いままでに何度も、身近な人や愛犬との悲しい別れを経験している、とくれば泣いて当然かもしれません。

 でも、これほどまでに泣いた理由はそれだけではありません。それは、この作品の、最初の一行から最後の一行にまで、愛がしみこんでいるからだと思います。心が温かく、元気になる愛もあれば、複雑で、素直に表現できない愛、悲しい愛……。さまざまな愛が、さまざまなエピソードのなかにこめられています。その愛に自分の心が反応し、共鳴して、感極まってしまったのでしょうね。

 

 悲しい場面でも涙しましたが、わたしが最初にじわっときたのは、主人公テッドがリリーと最初に出会った、幸せいっぱいの場面(そこはハーパーコリンズ・ジャパンの特設サイトで試し読みができます)でした。リリーがテッドにはじめて犖世辰伸畍斥佞法△△佞譴鵑个りの無垢な愛を感じ、もうそれだけでじーんと、温かいものがこみあげてきました。

 泣くのって、悲しいときだけじゃないんですよね。「出だしでこれだから、覚悟して読まないと、たいへんなことになる」と気合い(?)を入れたのですが、そのあとも心が刺激されっぱなしで、どうにもなりませんでした。

 読み終わったいまは、『おやすみ、リリー』というタイトルだけで、目がうるんでしまうほどです。このタイトルにも、大きな意味があるということを知ってしまったから。ここにも、悲しくも大きな愛がこめられていたんですね……。

 

 もちろん、ただの爐涙頂戴瓮好函璽蝓爾箸いΔ錣韻任發覆、ユーモアや、ファンタジーのテイストもふんだんに盛りこまれています。アメリカ・ロサンゼルスに住んでいる主人公テッドは、セラピーに通っているのですが(なんとなくアメリカのストレスフルな都会人、という雰囲気が漂います。テッドの場合、セラピーに通う理由は、都会のストレスだけではないのですが)、セラピストのジェニーに対するテッドの態度が滑稽なほど辛辣で、そこは毎回笑ってしまいました。

 タコ(リリーの頭にできた腫瘍)が妙に哲学的なのもユーモラス。状況からしてタコに共感はできませんが、とても魅力的なキャラクターでした。そのタコをリリーの頭から追い出すべくテッドが繰りだす作戦は、どれも突拍子がなく、非現実的で、それだけに、わらにもすがりたいテッドの気持ちが伝わってきて、おかしいやら、悲しいやら、せつないやら……。

 最後に『白鯨』よろしく海に出て、タコと死闘を繰り広げるくだりは、もう手に汗握る冒険物語といってもいいくらいです。こうした一風変わった趣向も、他にはない味わいだと思います。

 

 本作を読んで感じたことがもうひとつ。こんなふうに本を読んで(あるいは映画を観て)泣くという行為は、少なくともわたしの人生には必要なんだなと、妙に実感しました(毎回号泣というわけにはいきませんけど)。

 おかしな例えかもしれませんが、本や映画で泣くのは、狄科屬雖瓩澆燭い覆發里なと。寝ている間に寝返りを打つのは、無意識のうちに体のゆがみや疲れをほぐしている、と聞いたことがあります。『おやすみ、リリー』でさんざん泣いたあと、すっと心が軽くなった気がしました。

 泣くことがストレス発散、なんていう話もありますが、爐いの洵瓩鯲すことは、狄瓦離灰雖瓩鬚曚阿垢海箸任發△襪鵑任靴腓Δ諭わたしの好きなガンダルフもこう言っています。

「わしはいわぬ、泣くなとはな。 全ての涙が悪しきものではないからじゃ」

(『指輪物語 王の帰還』 J.R.R.トールキン:著 瀬田貞二・田中明子:訳 評論社)

 

 いろんな感情が呼び覚まされて、読書の醍醐味がたっぷり味わえ、そして心のコリもほぐれる。愛犬家に限らず、読書を愛するすべての方におすすめしたい作品です。

荒野 

 

 数日前に読んだ"Silent Child"はほぼ一気読みでしたが、こちらも面白かった!数日で読み切ってしまいました。

 

 

The Dry by Jane Harper

 

 オーストラリアを舞台とした、クライムサスペンス。"The Dry"というタイトルにひかれ、Amazon.comやGoodreadsのレビューで高評価だったこともあり、手をつけました。

 

<ストーリー概要>

 連邦捜査官のアーロン・フォークは、少年時代の親友ルークが亡くなったという知らせを受け、20年ぶりに故郷に戻っていた。ルークだけでなく、ルークの妻と幼い息子までもが亡くなっていた。ルークが生活苦から妻と息子を手にかけ、自らも命を絶った心中事件だという。干ばつが引き起こした悲劇。誰もがそう信じていた。

 再び故郷の土を踏んだアーロンの胸には、苦い記憶がよみがえっていた。20年前、アーロンはこの町で起こったある事件の犯人として疑われたのだった。その過去の事件と、ルークの死の謎に、否応なく巻きこまれていくアーロン。

 アーロンは地元警察のラコと協力して、捜査を開始する。ルークは本当に家族を殺したのか? 20年前の事件の真相は? 焼けるような暑さと渇いた空気が、アーロンの思考を阻む……。

 

<感想>

 プロットと伏線の張り方が絶妙で、とてもデビュー作とは思えない完成度の高い作品でした。関係なさそうに見えるエピソードが、実は大きな意味を持つ。ミステリーにはよくある設定ですが、さりげなく、かつきちんと、推理に必要な事実が提示されています。読者に対する、作者のフェアな姿勢がうかがえます。謎解き部分で「あれって、これの伏線だったのね!」とわかったとき、爽快感をおぼえました。

 主人公アーロンのキャラクターもよかった。連邦捜査官ですが、主に「お金」がらみの事件を担当しているようで、タフガイという雰囲気ではありません。といって、クールというわけでもない。強さよりも、やさしさ、誠実さが前に出ている、そんな人物です。捜査中も、結構ひどい目にあうのですが、感情をあらわにすることはほとんどなく、淡々と捜査を進めていきます。作中、アーロンの性格が「安定している(stable)」と表現されていましたが、まさにそうだと思いました。

 ただ、過去の事件のこともあり、他人に心をさらけ出せない、そんな暗い一面もあり、明るくわかりやすい主人公が好きな読者なら、ちょっといらいらするかも? 

 アーロンの相棒となるラコもいい味だしています。人物を見抜く目を持っているようで、アーロンを信用に足りる人物と瞬時に判断し、友情を築いていきます。そんなふたりが、なかなか見抜けなかった真犯人。わたしは完全にノーマークでした……。作者に完敗!です。

 

 "The Dry"というタイトル通り、町も人も渇ききり、むき出しになる欲望や感情。この「干ばつ」という自然災害はストーリーに彩を添えているだけでなく、クライマックスで重要な意味を持ちます。こういう舞台設定のうまさも、評価が高いポイントではないかと思いました。

 

<個人的な評価>☆5

模型の家

 

 原書を挫折したこちらの作品、翻訳書で読了しました。

 

すべての見えない光

 

 最後のページを読み終わったとき、こう思いました。わたしは本を読むとき、そのストーリーのなかに「救い」を求めているのかなと。少なくとも、フィクションを読むときは、そこになにがしかの「救い」を感じることができれば、いい読書だったな、と思える気がします。そしてこの作品もそうでした。戦争。早く大人にならざるを得なかった子どもたち。善人が善人のままでいられない時代。登場するすべての人物が、辛さ、悲しみを味わっています。その状況で、少女と少年が出会ったこと、少女が少年に助けられたこと、少年が少女を助けられたこと、そのひとつひとつがこの作品を読むうえで大きな救いでした。とてつもなく悲しいけれど、ただ悲しいだけではない。ハッピーエンドではないけれど、主人公や登場人物たちが前を向いて終わる。そんなストーリーがわたしは好きなんだなと。

 

 読んでいる間も感じたことですが、これだけの長編なのに、無駄だと思える文章が一文もないのに驚きました。訳者の藤井光さんがあとがきで述べられていますが、ひじょうに「磨きこまれた」作品です。執筆に十年を要したということですが、言葉、文章、章立てのどれをとっても、作者のまなざしが行き届いている。ストーリーのなかで「炎の海」と呼ばれるダイヤモンドが登場しますが、ダイヤモンドの原石を切り出して、最も美しく見えるカットに仕上げるように、この作品も書かれた、そんな印象を受けました。

 原書を読むのは挫折しましたが、翻訳書を読んでみて、原書の良さを余すところなく表現した、すばらしい作品になっていると感じました。

川と町

 

 受講中のリーディング課題用にと、Goodreadsで評判のよさそうだったこちらを読了しました。

 

 

Silent Child  by Sarah A. Denzil

 

 いわゆる「サイコ・スリラー」ものです。サイコ・スリラーといえば、『ゴーン・ガール』や『ガール・オン・ザ・トレイン』のイメージですが、こちらもやはり女性が主人公(『ゴーン・ガール』は夫婦ですが)です。イギリスのアマゾンでベストセラーリスト("Crime、Thriller and Mystery"カテゴリー)のトップにあがっているということで、期待して読んでみました。

 

<ストーリー概要>

 エマは10代で母親となり、生まれた息子エイデンと、夫ロブと幸せに暮らしていた。だがエイデンが6歳のとき、悲劇が起こる。大雨で近所の河川が氾濫し、エイデンが流されて行方不明になってしまったのだ……。それから10年。つらい日々を乗り越え、新たな人生を歩みはじめたエマ。離婚、再婚を経て、出産を数週間後に控えた彼女のもとに、驚愕の知らせが入る。エイデンが見つかったというのだ。駆けつけたエマが見たのは、16歳になった息子の姿だった……。

 10年もの間、誰かに監禁されていたエイデンは、言葉を失っていた。警察は犯人を捜すが、捜査は難航する。現在の夫のジェイクや、元夫ロブまでもが疑われ、マスコミも騒ぎはじめる。いったい誰が、エイデンをこんな目にあわせたのか? 犯人は、エマの身近な人間なのか?

 

<感想>

 読み終わったあと、率直に「よくできたサイコ・スリラー」という印象を受けました。まず、舞台背景やキャラクター設定が明確で、登場人物の人数も多すぎるということもなく(翻訳ものにありがちな、この人だれだっけ?ということもなく)、すんなり読めました。

 読みやすいというのもよかったのですが、何といってもこの作品のおすすめポイントは、肝となる爐劼佑雖瓩旅みさです。思わず「おおっ」と声が出たくらい。話が7〜8割くらい来たところで、真相に迫る山場が設けられているのですが、そこで1回ひねりがあって、さらにもう1回、そして最後にもう1回ひねってくるという、隙のない展開です。最初のひねりは、そこまでの流れで「やっぱりこいつが犯人か〜」と落ち着きそうになるのですが、そう話は簡単に終わらないよというわけです。

 その山場に来るまでの狎り瓠淵┘泙隆蕎陲瞭阿とか、エイデンの行動描写とか)も、これでもかというくらい緻密に描かれています。中間部の展開がやや遅い・重たい感じも受けましたが、終盤のテンポアップを際立たせるための爐犬蕕鍬瓩塙佑┐襪噺果はあったと思います。わたしはまんまと引っかかり、ギアチェンジしてからは怒涛の一気読みでした。

 

 マイナス点をあげるとすると、エマの人生が盛りだくさんすぎる点? 子供だけでなく、その直後に両親まで亡くし(両親についてはひねりに絡んでくるわけなのですが)、やっと立ち直って、再婚して、もうすぐ出産、というときに、死んだと思った子どもが現れて、身重の体でものすごいストレスにさらされるという……。最後なんて、陣痛が始まった体で格闘し、走り回ってるんですよ!? ちょっと無理があるような……(母は強しなのか?)。

 それと、真相に関わる重要な人物の影が薄かった点も気になりました。犯人が中盤以降にやっと出てくる(厳密には狹仂讚瓩靴燭箸聾世い鼎蕕し舛如某擁で、キャラクターや内面描写がほとんどされておらず、ちょっとインパクトが弱かったかなと。あと、個人的に読んでいて一番「感じ悪い」と感じた人物が、最後のひねりのところで一応の制裁を受けるのですが、いまいち釈然としない感も残りました(わたしはもうちょっと別の解決方法もあるんじゃないかと感じました)。

 

 余談ですが、暴力シーン(ほとんどなく、終盤に突然出てくる)が結構生々しかったのも印象的でした。エグイとかではなく、冷静に淡々と描写されているので、かえって怖かった……。まあ、それだけ作者の描写力が優れているという証拠なんでしょう。これが女性作家ならではなのかはわかりませんが、いままで読んだ女性作家のミステリーには、少なからず同じ傾向が見られたように思います。

 

<個人的な評価>☆4.5

ランタン

 

 年末からこっち、ほぼ休みなしで取り組んできたお仕事がひと段落しました。ノンフィクション、フィクションと、続けて訳す機会をいただき、今後に弾みが(気持ち的に)つきました。

 とにかく、いろいろと滞っていることがあるので、そちらを片付けていこうと思います。ということで手始めに、積読本の山に手をつけました。

 まず、読みかけだったこちらを読了。

二人のウィリング

二人のウィリング』 

ヘレン・マクロイ:著 渕上 痩平:訳

 

 最近、テンポの速いミステリーを読むことが多いので、安心して読めました。いわゆる「フーダニット」のおもしろさが味わえる作品で、劇的なエピソードや場面展開は少ないものの、そのぶんクライマックス(犯人がわかるところ)で大きな衝撃が来るという、読み応えという点でも満足のいく作品かと思います。

 こういう本格ミステリーはじっくりと腰を据えて読まないと、流れがうまくつながらず、?になってしまいますね。あまり注意せずに読んでいた部分が、あとの伏線になっていて、「どこに書いてたっけ?」と何度かページを戻りました…

 

 残念ながら、こちらは中断……

 

 

His Bloody Project 

by Graeme Macrae Burnet

 

 どうもこの作品の持つ「人生・将来への行き詰まり感」「暗さ」に入っていけませんでした……。半分も読めていないので、おもしろいのはこれからなんでしょうけど……。でも読みづらい、重い、ということは、それだけ作者が「情景や心理を書きこめている」からこそなんでしょう。わたしが「ミステリー」として読もうとしていたことにも、原因があるのかもしれません。

 

 こちらは一気読みでした!

 

その雪と血を

 

その雪と血を

ジョー・ネスボ:著 鈴木恵:訳

出版社の作品紹介ページ→ハヤカワ・ミステリ

 

 まず驚いたのは、その(本の)薄さです。しかも、ハヤカワのポケミスなのに、2段組みじゃなくて1段組みです。ちょうど(?)眼精疲労からくる体調不良でダウン(仕事が終わってどっと来たのか……)していたので、横になりながら読みましたが、具合の悪いときに読んでもこの作品の良さは存分に伝わってきました(ってそんなときに読むのもなんですが)。

 主人公が殺し屋で、暴力シーンも結構あるのですが、それを包み込むようなぬくもりがストーリーから感じられます。バイオレンスとロマンティック、パルプ・ノワールの低俗さと詩的な文学性が両立しているという、ちょっとほかのミステリー小説にはない雰囲気が味わえる作品です。本作、「翻訳ミステリー大賞」の候補作になっています。「読者賞」に一票投じようと思っていますが、締め切りまでにほかの作品が読めなければ(読めても)、こちらで投票しようかな……。

夜の読書

 

 寝る前のお楽しみに、この本を読みはじめました。

 

二人のウィリング

二人のウィリング

ヘレン・マクロイ:著 渕上 痩平:訳

出版社の作品紹介ページ→筑摩書房

 

 ヘレン・マクロイ、大昔に読んだことがあるのですが、最近邦訳が刊行された作品もあるんですね。IN POCKETの「文庫翻訳ミステリベスト10」にも選ばれていたので(総合ベスト10)、気になっていた作品でした。

 まだ序盤ですが、ページターナーなミステリーです。自分(ウィリング博士)の名を名乗る男と遭遇し、その男を追ってとあるパーティーへ潜入、そして殺人事件が起こる…という展開。まず、冒頭でぐっとつかまれました。長さもほどほどですし、苦手な「バイオレンス色・陰鬱ムード強め」の作品でもないので、かなり読みやすいです。

 

 一方、いまいち波に乗れないのがこちら……

 

 

◆His Bloody Project

by Graeme Macrae Burnet

 

 舞台となる時代や土地、文化的背景(19世紀スコットランドの寒村が舞台)になじみがないので戸惑うことが多く、辞書を引いても?が残ってしまったりと、かなりてごわい作品です。

 それと、かなり暗い……主人公が貧しい農民(小作人)の息子で、生活も苦しく……となるといきおい暗くなるわけですが、いまの気分としてはちょっと重たすぎるのかもしれません。

 いま3分の1あたりなので、事件(主人公が起こした殺人事件)の部分に近づいてくれば、読書のテンポアップもできるかも?と期待しつつ、もう少し辛抱して読んでみようかと思います(お蔵入りしないことを祈りつつ…)。

 

 原書を読むときは、自分がリーダーとしてレジュメを書く・訳す立場だったらということを意識するようにしていますが、こういう「読者に少々我慢を強いる作品」は、どう評価するか(アピールするか)が難しいです。「最後まで読めばおもしろい!」と紹介するのでは、最初から「前半読みづらい・おもしろくない」と言っているようですし……(それが正直な感想なら、そう評価することになるとは思いますが)。

パグ

(一瞬、ETかと思った一枚。)

 

 去年、興味をひかれて読みはじめたものの、いろんな理由で挫折している本(主に原書)が結構あります。Kindleのなかや本棚の片隅でさみしそうに出番を待っていますが、望み薄な感じです。翻訳書が出たものもあるので、せめてそちらだけでも読めればいいかもしれません。

 とくにこの作品!

 

all_the_light

 

原書:All the Light We Cannot See

翻訳書:『すべての見えない光

アンソニー・ドーア:著 藤井光:訳

出版社の作品紹介ページ→新潮社

 

◇読了していない理由:とにかく長い! 178章まである!(各章は短いのですが。)気が向いたときに、少しずつ読んでいたのですが、とてもそんなペースじゃ終わりそうにない。本作、日本翻訳大賞の候補作に選出されているということもあり、とにかく翻訳書を先に読もうと思います。

 

 あともう一冊、原書を挫折して、翻訳書が出たものがこちら。

 

 

原書:H is for Hawk

翻訳書:オはオオタカのオ

ヘレン・マクドナルド:著 山川純子:訳

出版社の作品紹介ページ→白水社

 

 切れのある、硬質な文体にてこずってしまい、先に読み進めることができませんでした。あの原文がどんな日本語になっているか、とても気になります。

 

 原書を読んでいると、細かい部分に引っかかって、流れに乗れない、ということがよくあります。翻訳をしていても同じで、それが「メインのストーリー」に対して「枝葉」の部分だとわかっていても、妙にこだわりを捨てきれず、一文にやたらと時間がかかってしまう。(とくに、フィクションだと地の文で、情景描写とか状況説明の文にその傾向があるようです。「ここ、そんなに大事なとこじゃないよね」と思いながらも、ドツボにはまるという……)

 納期があるなかで、これをやってしまうと、本当に時間をかけるべき部分にしわ寄せがきてしまいます。もっと作品全体を見て読む/訳す、これを意識しているつもりですが、難しいです。

 一文だけとか、少ない分量の文章がうまく訳せても、パラグラフ、作品全体になると翻訳が乱れる、ではだめなんですよね……。


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