海外の犬情報を集めるのに、信頼できるサイトとしてよくチェックしているのが、American Kennel Clubのサイト。とてもおしゃれで、情報の見やすいサイトです。興味深い記事がたくさん掲載されていて、会報誌のデジタル版も閲覧できるので、見始めるとついつい長居してしまいます。

 

 そのAKCのサイトで、おもしろいクイズを見つけました。「わんことおうちのマッチングをしよう」というもの。家の写真が出てくるので、その家で暮らすのにぴったりなわんこを4択で選んでいきます。日本ではあまりなじみのない犬種も登場するので、答え合わせが楽しいです!

 

 クイズはこちら→Quiz: Can You Match the Dog to His Home?

 トライしたら、8割がた正解でした。

 

 イギリスのとある宮殿に住む犬と言えば……?

 

コーギー

天使

 

 書評サイトGoodreadsの"Dog"カテゴリーで、つねに"Most Read This Week"に表示されている作品があり、ずっと気になっていたのですが、お盆に読了しました。

 

Faithful  by Alice Hoffman

 

  ロングアイランドに住む女子高生のシェルビーは、ある冬の日、車の事故を起こし、一命はとりとめたものの、助手席に乗っていたヘレネは昏睡状態となってしまいます。シェルビーは罪悪感にさいなまれ、心に深い傷を負うのですが、そんなシェルビーが前を向いて生きていけるようになるまでを描いた物語です。

 

 事故のとき、シェルビーは「天使」の姿を見ます。自分は、天使に助けられた。でもどうして、ヘレンを助けてくれなかったのか。そんなシェルビーの心の叫びに答えるように、シェルビーのもとに、天使からメッセージが届くようになります。差出人不明の絵葉書が、一枚、また一枚と舞い込むのです。書かれているのは、いつも一言だけ。「気持ちを声に出すんだ(Say something)」というような。

 シェルビーは、思い切って家を出て、大都会のペットショップで働き始めます。シェルビーに人間らしい、温かい感情をよみがえらせたのは、犬であり、人でした。そして、絵葉書のメッセージに導かれるように、前へと進んでいきます。

 

 シェルビーが犬や猫を助ける場面が何度か出てきます。助け方はちょっと(というかかなり)強引。助けた犬の世話をし、命に責任を持つということが、シェルビーを立ち直らせるきっかけになったのでしょう。

 

 「奇跡」「天使」といったスピリチュアルな要素もありますが、あくまで、シェルビーというひとりの少女の再生と成長がテーマです。ヤング・アダルトのカテゴリーに入れてもよさそう。文体も平易で読みやすく、ストーリーはこびも安定しているので、少し長めの洋書にチャレンジしたい、一冊読み切ってみたい、という人におすすめしたい作品です。

セキレイ

(Wagtail:セキレイ)

 

「犬&猫もの」のコージー・ミステリー・シリーズの第一弾を読みました。

 

 

Murder, She Barked by Krista Davis

 

 ワシントンD.C.で暮らす主人公ホリーが、愛するオーマ(オーマ(Oma)はドイツ語で「おばあちゃん」。オーマはドイツ出身で、アメリカに移住しているという設定)から急な電話で呼び出され、故郷のヴァージニア州ワグテイルまで車を飛ばす、というところから物語がスタート。その道中、犬(ジャックラッセル・テリア。これが表紙の犬で、名前は「トリクシー」)を拾ったり、炎上する車を目撃したりと、序盤から盛りだくさんな感じでワグテイルに到着。

 ワグテイルは「ペット・フレンドリー」をうりにしている保養地で、オーマはペット・オーナーに大人気のホテル経営者です。オーマが誰かに命を狙われているらしいので、オーマを守るため、ホリーはワグテイルに留まることにするのですが……。

 その後、ホリーの恋人ベンと、ベンの昔の彼女キムが現れてやきもきし、幼馴染のホームズに思わずときめき、殺人事件が起こり(これがメイン)、トリクシーが行方不明になり、ホリーが素人探偵をはじめ……と、コージーお約束の畳みかける展開が続きます。少し話が掴みにくいところもありましたが、プロットはしっかりしていて、いろいろと張られた伏線も最後にきちんと回収され、「あの話は何だったのか?」ということもなかったです。

 

 コージー・ミステリーといえば、「絵はがきのような田舎の村」が舞台になることも多いですが、本作の舞台のワグテイルも、自然あふれる美しい村です。ペットで町おこしをしているという設定で、ホテルもレストランもショップも、町中どこでもペットOKの、まさにペット・パラダイス。オーマのホテルの部屋も、ペットのおやつやおもちゃが用意され、至れり尽くせりです。レディースフロアならぬ、猫専用フロアみたいなのもある! 宿泊ペットには、GPSつきの首輪をつけることになっていて、万一迷子になっても探せるようになっていたり(このGPS首輪が事件解決に一役買うことに)となかなかに細かい!

 

 トリクシーと、トゥインクルトウ(表紙の三毛猫)が、いちおうメインの動物キャラクターで、そのほかにも、ジンジャースナップ(オーマの飼っているゴールデンレトリバー)などなど、犬や猫がたくさん登場します。本作はPaws and Claws Mystery瓠米球と爪、つまり犬と猫?)というシリーズの第1作で、トリクシーたちも、これからだんだんと活躍の場が増えていくのかもしれません。

 

 書評サイトGoodreadsでは、5作ともそれなりの数のレビューがついていて、評価もすべて星4以上なので、完成度やおもしろさも安定しているシリーズのようです。

 

 この作家さん、別のコージー・シリーズも発表していて、そちらは翻訳版が出版されています。主人公が「家事アドバイザー」というちょっと変わった設定で、愛読していました。翻訳版の続きが出ないか楽しみにしているのですが……。

 

 

感謝祭は邪魔だらけ

クリスタ・デイヴィス:著、島村浩子:訳

シェパード

 

 世の中には犬好きも多いので(最近は猫人気に押され気味ですが)、犬が主人公の本・犬が登場する本には一定の需要がある気がします。ということで、海外のすばらしい「犬本」(勝手にジャンル化)との出会いを楽しみに、読書に励んでいます。

 前に「名犬チェットシリーズ」のことを書きましたが、「犬ミステリーといえば、忘れちゃいけない」という作品があります。それがこちら。

 

 容疑者

◆『容疑者』 

ロバート・クレイス:著 高橋恭美子:訳

 

 刑事スコット&シェパート犬・マギーのコンビのシリーズ第一作。警察もの(K9、つまり警察犬をパートナーとする部隊)で、語り口もストーリーもやや硬派ですが、犬の描写になると、なんだかぐっと柔らかくなる気がします。作者の犬への愛情?でしょうか。

 マギーの視点で書かれた章は、犬派の人間にはたまりません。マギーは軍用犬で、戦争でパートナーを失い、心身ともに大きな傷を負います。そのマギーが、同じように傷ついたスコットと出会い、一緒に再生していく様子が描かれていて、「マギー、がんばって!」(スコットは?)と、読みながら心の中で応援していました。マギーにとって、スコットは家族であり、ボスであり、生きる理由であり……とにかく、すべてなんです。そんなマギーのひたむきさが、シリアスでハードボイルドな内容に人間らしい(犬だけど)ぬくもりを添えてくれています。

 

 この作品、犬の行動、とくに嗅覚の描写がすばらしいです。この作品を読めば、犬がどんなふうに「におい」を嗅いでいるのか疑似体験できます。うちの子たちと散歩に出たときに、飽きもせずにおいをかぎまわる姿をしげしげ眺めてしまいました(人間が臭いと感じるにおいが、この子たちにはいい匂いだったりするんですよね……)。うちには超シニア犬もいるのですが、においだけは敏感、というか健在です。床に落っこちたフード一粒、見逃し(嗅ぎ残し)ません。

 

 チェット・シリーズのチェットは、「ぼく」と一人称ですが、こちらのマギーは三人称で語られています。どちらの作品も、犬については「本気かつ真面目」に描いているので、犬好きさんも納得・満足できると思います。個人的には、チェットの「ちょっとぬけてる感じ」が好きなんですが、マギーも大好きです。

馬

 

 犬ミステリー、猫ミステリーときて、馬ミステリーを立て続けに読みました。

 

 犬ミステリーはこちら。

 

その犬の歩むところ

その犬の歩むところ』 

ボストン・テラン:著、田口俊樹:訳


 

 猫ミステリーはこれ。

 

書店猫ハムレットの休日

書店猫ハムレットの休日

アリ・ブランドン:著、越智睦:訳

 

 コージー・ミステリーはシリーズものが多いですが、読み続けていたシリーズでも、途中で読まなくなってしまうこともあります。こちらの「書店猫シリーズ」は、この作品で三作目ですが、いまのところ第1作目から続けて読んでいます。

 主人公が経営しているのが書店というところもツボですし、120パーセント犬派のわたしも、クールな黒猫ハムレットにはやられっぱなしです。今回は「全米キャット・ショー」にハムレットがゲストとして参加する、というストーリーでした。「ドッグ・ショー」が舞台のミステリーは読んだことがありますが、「キャットショー」ははじめてです。

 コージーお約束のドタバタ感がほどよいところがお気に入りのシリーズです。

 

 そして馬が出てくるミステリー。

 

とろとろチーズ工房の目撃者

とろとろチーズ工房の目撃者

ローラ・チャイルズ:著、東野さやか:訳

 

 こちらも、第1作目からシリーズ通しで読んでいるコージー・ミステリー(前作はこちらで紹介しています)。

 いつもながら、主人公(探偵役)スザンヌが経営するカフェ「カックルベリー・クラブ」は大繁盛。ハロウィンのイベントがあったり、毛糸売りのトラックが登場したり(読んで字の通り、トラックを店舗に移動販売をしている毛糸屋さん)と、ミステリー以外のカルチャー要素が満載で、そこがこのシリーズのいちばんの魅力かなと思っています。

 スザンヌは愛馬家(&愛犬家)なのですが、本作では馬がらみの事件が発生。表紙にもいますが、牛も出てきます! スザンヌは前作で医師のサムと婚約し、結婚を控えているのに、殺人が起こったらその準備にも身が入らない……というのがスザンヌらしくもあるのですが、ちょっと婚約者がかわいそう? ロマンスも入れつつ、ちょっとしたアクションもあって、でも全体的に落ち着いた雰囲気で、本作も安定感抜群の「大人のコージー・ミステリー」でした!

 

 コージー・ミステリーはいくつかのジャンルに分類できると思うのですが、わたしのなかでは、

 

・動物もの(犬や猫が登場する、あるいは主人公)

・職業もの(主人公が本屋、カフェ、スイーツのお店、チーズの専門店、スープの専門店(?)、アンティークショップ、ゲストハウス、ペットグッズのお店などを経営していたり、シェフやパティシェ、作家、芸術家だったりする)

・趣味、カルチャーもの(編み物やパッチワーク、お菓子作りなど、主人公の趣味がストーリーにからんでくる)

・歴史もの(貴族やメイドが登場するような、時代設定が古いもの)

 

といったジャンルが思い浮かびます。ミス・マープルのような、いわゆる普通のおばあちゃんが主人公のコージーもありますが、最近の作品では、主人公(女性の場合がほとんど)が何らかの職業を持っている作品が大半を占めている気がします。自分のやりたいことを職業にして奮闘している主人公に励まされることも多く、それがコージーを読む楽しみのひとつになっています。

 翻訳されてほしいシリーズや、続きが読みたいのに翻訳書が出なくなったシリーズもあるので、いちコージーファンとして、いろんなシリーズを読み続けることで、このジャンルを応援していきたいです。

オオカミ

(オオカミ。凛々しい立ち姿。)

 

 

Say Goodbye For Now by Catherine Ryan Hyde

 

 テキサス州の小さな町のはずれで、傷ついた動物を保護し、世話をすることを生きがいに、ひっそりと暮らす女医ルーシー。傷ついた一匹の犬(プリンス)と出会った少年ピート。この三者の不思議な縁が、厳しい現実のなかで育まれていく様が描かれています。

 プリンスはハーフ・ウルフ(犬とオオカミのハイブリッド)で、ピートが名づけました。残念ながら、期待していたよりもプリンスの存在感が薄かったのですが、ピートがプリンスと出会ったことで運命の輪が回りはじめるので、プリンスあっての物語だと思います。なにより、ピートとプリンスの絆には心温まるものがありました。プリンスは半分犬といってもほぼ野生なので、飼いならすことはできず、傷が癒えたら野に帰る存在。でも、それでピートとプリンスの関係が終わったわけではなく……というところに、ぐっときました。

 

 タイトル通り、ルーシーやピートはいくつかの爐靴个靴諒未譟goodbye for now)瓩魴亳海靴泙后J語の背景となる時代設定が現代よりも少し古く、人種差別や親子の関係など、決して明るくはないテーマがからんでくるのですが、ルーシーとピートが互いにはげまし、支え合い、希望をもって力強く生きていく姿にはすがすがしさを感じました。

 

 数十冊のベストセラー(しかも、どの作品もレビューでひじょうに高い評価を獲得しています)を世に送り出している作家さんだけあって、ストーリー運びが安定しているところも、読みやすさにつながっているでしょうか。まさに王道のFeel-good storyで、読後感はとてもよかったです。

 

 この作家さん、動物が登場する作品を多数発表しています。こちらもそのひとつ。

 

(こういう表紙に、犬好きはやられてしまうんですよね……)

犬の目

 

 楽しみにしていた作品が刊行されていました。

 

その犬の歩むところ

◆『その犬の歩むところ

ボストン・テラン:著 田口俊樹:訳

 

 

「翻訳ミステリー大賞授賞式」の出版社対抗ビブリオバトル(サイト参照)でこの作品を知ってから、ずっと気になっていた作品でした。

 作品全体を通して「キリスト教的な世界観」が感じられ、読んでいるあいだ、頭のなかに「許し」とか「癒し」という言葉が浮かんでいました。テロや戦争のエピソードも出てきますし、アメリカという国やアメリカの現実を象徴的に捉え、物語として表現している作品ではないでしょうか。といっても、難しく構えて読む必要はなく、素直に読めば、心に何かが響く話だと思います。

 最後に神話が出てくるのですが、「犬は人間のそばにいることを選んだ」というくだりに、犬好きのわたしはぐっときました。

 

 この作品を読んだあと、わんこが主人公のミステリーがむしょうに読みたくなって、こちらをチョイス。

 

誘拐された犬

◆『誘拐された犬

スペンサー・クイン:著 古草秀子:訳

 

「犬もの」のミステリーというと、この本を思い出します。名犬(迷犬?)チェットと飼い主の探偵バーニーのシリーズで、原書では8作ほど発表されているようです。こちらの翻訳書、以前別のタイトルで刊行されていたのですが、いつのまにかタイトルを変えて文庫化されていました。

 ストーリーはチェットの一人称で進むのですが、犬が言葉をしゃべれたら、ぜったいこんな風にしゃべるだろうな、という絶妙な語り口。犬好きなら「あるある」と声を出してしまうような、チェットのしぐさにはやられっぱなしです。ジャンルとしては、コージーよりの、ほのぼの系ミステリーでしょうか。痛い・暗い描写はほとんどないし、面白くて読みやすいので、犬好きさんへのプレゼントにぴったりです!

水滴

 

 ここのところ、意識してノンフィクションを読むようにしています。そして出会った本がこちら。

 

煙が目にしみる

煙が目にしみる:火葬場が教えてくれたこと

ケイトリン・ドーティ:著 池田真紀子:訳

出版社の作品紹介ページ→国書刊行会

 

 夜寝る前に少しずつ読もう、と思って読み始めると、面白くてぐいぐい引き込まれてしまいました。「葬儀」がテーマの本なので、おもしろい、と言っていいのか?ですが、ときたま顔を出す著者のブラックすぎるブラックユーモアに、笑わずにはいられませんでした。

初めてひげ剃りをした死体のことを、女は死ぬまで忘れない」と、なんだか退廃的なフィクションのような書き出しで始まります。幼いころに目撃した犹爿瓩鬚っかけに、死というものにとらわれてきた著者ケイトリン。大学では中世史を専攻し、「死生観」に関する論文を読みあさり、「魔女裁判」を卒論のテーマに選んだ彼女は、大学卒業後、まさに敵陣に乗りこむ意気込みでサンフランシスコの葬儀社に就職し、火葬技師(そんな職業があるとは知りませんでした)として働き始めます。そこでの体験をもとに、ケイトリンが見た死者や家族の姿、アメリカの葬儀の現実、死に対する意識と、ケイトリン自身の葬儀への思いを綴ったのが、この回想録『煙が目にしみる』です。

 死というものを研究していた方が書いただけあって、さまざまな文化の葬儀や死生観が紹介されていて、読みごたえがありました。日本の「イザナギとイザナミの神話」や納棺師の話も登場します。そうした知識と葬儀社での現場体験をもとに、ケイトリンはついには「葬儀プランニング」の会社を設立し、「葬儀の伝道師」よろしく、精力的に情報提供などの活動を続けているそうです。

 

 ここ数年読んだ本のなかに、同じようなテーマを扱った本はなかったので、貴重な読書体験ができました。テーマに驚かず、読んでみてほしい、と人にすすめたくなる、そんな一冊です。

コーヒーと本

 

 先日、出版翻訳を勉強している仲間に声をかけて、リーディング(原書を読んで、あらすじや感想をまとめたレジュメを作る作業)勉強会を開催しました。講師をお招きするコネもないので、参加者がめいめいレジュメを作成し、そのレジュメをたたき台に、各自プレゼン、コメントしあうという形式でした。

 やってみて感じたのは、とても勉強になった!!ということ。これまで、リーディングの通信講座なども受講してきましたが、やっぱり「リーディングは原書を読んでなんぼ、レジュメは書いてなんぼ」なんだなと実感。

 こうした勉強会という形で、締め切りを作ってリーディングをするというのは、実際の仕事に向けての予行演習にもなりますし、モチベーションの面でも大きな刺激になります。そして、自分のレジュメを誰かに実際に読んでもらうという行為は、いい意味でプレッシャーになります。さらに、ほかの人が書いたレジュメを読むと、「こういう風に表現すればいいのか」「こんな工夫もできるんだ」といういろんな発見があります。お互いのレジュメの良いところを真似しあって、次の自分のレジュメに活かしていく。本当に有意義な勉強会でした。

 今回の勉強会用に、わたしはこちらの作品でリーディングしました。

 

The Buried Book  by D. M. Pulley

 

 1952年夏。デトロイトに暮らす9歳の少年ジャスパーは、ある日突然、母アルシアに田舎の伯父の農場へと連れていかれる。「伯父さんの言うことをよく聞いて、いい子にしているのよ」そんな言葉を残して、母は姿を消した。以来、消息不明となったアルシア。なぜか警察も、その行方を追っているようだった。

 ジャスパーは、偶然見つけた母の古い日記を頼りに、母親の過去をたどりはじめる。そして、悲しみと汚れに満ちた大人の世界へと足を踏み入れる。違法行為、スキャンダル、殺人……。アルシアの身に何が起こったのか? ジャスパーは、母アルシアと再会することができるのか?

 

 という、少年ジャスパーを主人公とするクライム・サスペンスです。母を探すジャスパーが、悲しみと困難に立ち向かっていく様子が描かれていて、少年の成長物語としても読むこともできます。長めの作品ですが、テンポよく話が進むので、最後までわりとすらすらと読めました。

 本作の最大の特徴は、アメリカの農村の暮らしや先住民との関係など、時代的、文化的な背景が色濃く表現されているところ。とくにジャスパーが預けられた農場でのエピソードは、物語の強いアクセントとなっています。ストーリーの軸となる母アルシアの過去や、現在軸で起こっている犯罪事件に、居留区や先住民といった存在がからむという構図。白人に搾取される先住民という構図を下敷きに、先住民たちのやるせなさや憤りも描かれていて、物語としての深みも感じられました。

 

 主人公ジャスパーには、過酷な現実が突きつけられます。都会の生活からある日突然農場に放りこまれるという設定もそうですし、肉体的、精神的に傷つく場面がこれでもかと用意されていて、若干9歳の少年が受ける仕打ちにしては、ひどすぎるような気も……。ですが、ジャスパーがあらゆる困難を持ち前の賢さと機転、そして農場での生活で培われていく逞しさで乗り越えていく姿には感動を覚えました!

 ハッピーエンドというよりも、せつないラストです。でも、そういう余韻を残すところも、この作品のひとつの魅力といえるかもしれません。YAの愛読者にもお勧めしたい作品です。

 

 Amazon.comでも800件以上のレビューが寄せられているベストセラーなので(本作著者のデビュー作"The Dead Key"(2015)は、レビュー8000件以上で、星の平均4以上という高評価)、翻訳書が刊行されないかと密かに楽しみにしてましたが、どうやら出なさそう……。

空と鳥

 

 アメリカで話題のベストセラー、翻訳書が刊行されていたので読み始めました。ちょうど終盤にさしかかったところですが、このまま最後まで一気に読みたいけれど、読み終わるのが惜しい、もっと読んでいたい……そんな気持ちになりました。

 原書はこちら。

 

When Breath Becomes Air  by Paul Kalanithi

 

こちらが翻訳書。

 

いま、希望を語ろう

◆『いま、希望を語ろう』 

ポール・カラニシ:著 田中文:訳

出版社の作品紹介ページ→早川書房

 

 原書と日本語のタイトルが大きく変わっている点、おそらく賛否両論あるでしょうが、わたしは邦題も素敵だと思いました。"When breath becomes air"は、「吐息が空気に変わるとき」すなわち「命あるもの」だった息が、単なる空気となってしまったとき、と「生と死」を暗示しているフレーズだと解釈しています。邦題は原題とまったく異なるといえばそうなのですが、ここまで読む限りでは、著者のポールさんは「死のなかに生を見ていた」に違いなく、そういう意味からも日本語の「希望」という言葉を使うのは間違っていない気がします。まさに、希望を語っているわけなので。

 ポールさんが最初は医学ではなく、文学を学んでいたというところが、文章にも如実に表れています。随所に文学からの引用や、それ自体が文学(詩)とよべるような言葉が散りばめられています。彼は「生物学と、道徳と、文学と、哲学はどこで交わるのか?」という疑問の答えを得ようとして、初めは文学のほうからアプローチしていたわけですが、やがて「真の生物哲学を追及する」ためには「直接体験」が不可欠であるという結論に至り、生死と直接かかわる医学(脳神経外科)の道に進みます。そしてがんに蝕まれ、それまでは患者のものであり、医師として傍らで寄り添う立場であった「死」が自分のものとなったとき、ふたたび文学の世界に戻っていきます。そこに、文学の意義、意味を感じました。ポールさんも本書でこう言っています。

死の意味を理解するための言葉を、自分という存在を定義して、ふたたびまえに進む方法を見出すための言葉を探した。直接体験という特権を得たことによって、文学作品からも、学術的な著作からも離れていたのだけれど、今では、直接体験を理解するにはそれを言語に翻訳しなければならないと感じていた。(中略)前進するために、私は言葉を必要としていた。

 何かを書き記すこと、言葉を綴ることは(そしてそれを読むということも)、生きていることの証なんでしょうね。それにしても、文学の意味を、医師が書いた回想録のなかに見つけることができるとは……意外な出会いでした。

 原文を読んでいないのでなんですが、訳文がとても読みやすく、おそらく原文で表現されていたであろう、ポールさんの生きるということへの真摯な姿勢や、ひとつひとつの言葉を大事にする気持ちが、訳文に反映されているのがわかります。エッセイや回想録といったたぐいの作品を訳したことはないのですが、訳者が自分の主観に流されず、原文から感じとった印象を大事にして、そのうえで訳者自身の言葉で表現する、ということが、ほかのジャンル以上に求められるのではないかと思いました。

 今日はここまでにして、エピローグは明日読むことにします……。


Profile

Archive

Search

Other

Mobile

qrcode

Dog & Animal Books

Murder, She Barked
Free Days With George: Learning Life's Little Lessons from One Very Big Dog
Not a Sound
Killing Trail
The Education of Will: A Mutual Memoir of a Woman and Her Dog
Wishtree
See You in the Cosmos
Stalking Ground
The Darkest Thread
The Lost Words
Not a Creature Was Purring
Dog Songs
Hunting Hour
Death by Chocolate Lab
The Snow Child
All That Ails You: The Adventures of a Canine Caregiver
The Feather Thief: Beauty, Obsession, and the Natural History Heist of the Century
The Wild Robot Escapes
  
The Poet's Dog