コーヒーと本

 

 先日、出版翻訳を勉強している仲間に声をかけて、リーディング(原書を読んで、あらすじや感想をまとめたレジュメを作る作業)勉強会を開催しました。講師をお招きするコネもないので、参加者がめいめいレジュメを作成し、そのレジュメをたたき台に、各自プレゼン、コメントしあうという形式でした。

 やってみて感じたのは、とても勉強になった!!ということ。これまで、リーディングの通信講座なども受講してきましたが、やっぱり「リーディングは原書を読んでなんぼ、レジュメは書いてなんぼ」なんだなと実感。

 こうした勉強会という形で、締め切りを作ってリーディングをするというのは、実際の仕事に向けての予行演習にもなりますし、モチベーションの面でも大きな刺激になります。そして、自分のレジュメを誰かに実際に読んでもらうという行為は、いい意味でプレッシャーになります。さらに、ほかの人が書いたレジュメを読むと、「こういう風に表現すればいいのか」「こんな工夫もできるんだ」といういろんな発見があります。お互いのレジュメの良いところを真似しあって、次の自分のレジュメに活かしていく。本当に有意義な勉強会でした。

 今回の勉強会用に、わたしはこちらの作品でリーディングしました。

 

The Buried Book  by D. M. Pulley

 

 1952年夏。デトロイトに暮らす9歳の少年ジャスパーは、ある日突然、母アルシアに田舎の伯父の農場へと連れていかれる。「伯父さんの言うことをよく聞いて、いい子にしているのよ」そんな言葉を残して、母は姿を消した。以来、消息不明となったアルシア。なぜか警察も、その行方を追っているようだった。

 ジャスパーは、偶然見つけた母の古い日記を頼りに、母親の過去をたどりはじめる。そして、悲しみと汚れに満ちた大人の世界へと足を踏み入れる。違法行為、スキャンダル、殺人……。アルシアの身に何が起こったのか? ジャスパーは、母アルシアと再会することができるのか?

 

 という、少年ジャスパーを主人公とするクライム・サスペンスです。母を探すジャスパーが、悲しみと困難に立ち向かっていく様子が描かれていて、少年の成長物語としても読むこともできます。長めの作品ですが、テンポよく話が進むので、最後までわりとすらすらと読めました。

 本作の最大の特徴は、アメリカの農村の暮らしや先住民との関係など、時代的、文化的な背景が色濃く表現されているところ。とくにジャスパーが預けられた農場でのエピソードは、物語の強いアクセントとなっています。ストーリーの軸となる母アルシアの過去や、現在軸で起こっている犯罪事件に、居留区や先住民といった存在がからむという構図。白人に搾取される先住民という構図を下敷きに、先住民たちのやるせなさや憤りも描かれていて、物語としての深みも感じられました。

 

 主人公ジャスパーには、過酷な現実が突きつけられます。都会の生活からある日突然農場に放りこまれるという設定もそうですし、肉体的、精神的に傷つく場面がこれでもかと用意されていて、若干9歳の少年が受ける仕打ちにしては、ひどすぎるような気も……。ですが、ジャスパーがあらゆる困難を持ち前の賢さと機転、そして農場での生活で培われていく逞しさで乗り越えていく姿には感動を覚えました!

 ハッピーエンドというよりも、せつないラストです。でも、そういう余韻を残すところも、この作品のひとつの魅力といえるかもしれません。YAの愛読者にもお勧めしたい作品です。

 

 Amazon.comでも800件以上のレビューが寄せられているベストセラーなので(本作著者のデビュー作"The Dead Key"(2015)は、レビュー8000件以上で、星の平均4以上という高評価)、翻訳書が刊行されないかと密かに楽しみにしてましたが、どうやら出なさそう……。


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