空と鳥

 

 アメリカで話題のベストセラー、翻訳書が刊行されていたので読み始めました。ちょうど終盤にさしかかったところですが、このまま最後まで一気に読みたいけれど、読み終わるのが惜しい、もっと読んでいたい……読んでいて、そんな気持ちになりました。

原書はこちら。

 

 

When Breath Becomes Air by Paul Kalanithi

 

こちらがその翻訳書。

 

いま、希望を語ろう

『いま、希望を語ろう』 

ポール・カラニシ:著 田中文:訳

出版社の作品紹介ページ→早川書房

 

 原書と日本語のタイトルが大きく変わっている点、おそらく賛否両論あるでしょうが、わたしは邦題も素敵だと思いました。"When breath becomes air"は、「吐息が空気に変わるとき」すなわち「命あるもの」だった息が、単なる空気となってしまったとき、と「生と死」を暗示しているフレーズだと解釈しています。邦題は原題とまったく異なるといえばそうなのですが、ここまで読む限りでは、著者のポールさんは「死のなかに生を見ていた」と感じたので、そういう意味からも日本語の「希望」という言葉を使うのは間違いではない気がします。まさに、希望を語っているわけなので。

 ポールさんが最初は医学ではなく、文学を学んでいたというところが、文章にも如実に表れています。随所に文学からの引用や、それ自体が文学(詩)とよべるような言葉が散りばめられています。彼は「生物学と、道徳と、文学と、哲学はどこで交わるのか?」という疑問の答えを得ようとして、初めは文学のほうからアプローチしていたわけですが、やがて「真の生物哲学を追及する」ためには「直接体験」が不可欠であるという結論に至り、生死と直接かかわる医学(脳神経外科)の道に進みます。そしてがんに蝕まれ、それまでは患者のものであり、医師として傍らで寄り添う立場であった「死」が自分のものとなったとき、ふたたび文学の世界に戻っています。そこに、文学の意義、意味を感じました。ポールさんも本書でこう言っています。

死の意味を理解するための言葉を、自分という存在を定義して、ふたたびまえに進む方法を見出すための言葉を探した。直接体験という特権を得たことによって、文学作品からも、学術的な著作からも離れていたのだけれど、今では、直接体験を理解するにはそれを言語に翻訳しなければならないと感じていた。(中略)前進するために、私は言葉を必要としていた。

 何かを書き記すこと、言葉を綴ることは(そしてそれを読むということも)、生きていることの証なんでしょうね(ということは、このブログもある意味わたしの「生存証明」になるのか……)。それにしても、文学の意味を、医師が書いた回想録のなかに見つけることができるとは……意外な出会いでした。

 原文を読んでいないのでなんですが、翻訳がとても読みやすく、おそらく原文で表現されていたであろう、ポールさんの生きるということへの真摯な姿勢や、ひとつひとつの言葉を大事にする気持ちが、翻訳に反映されているのがわかります。エッセイや回想録といったたぐいの作品を訳したことはないのですが、訳者が自分の主観に流されず、かつ、原文から感じとった印象を大事にして、訳者自身の言葉で表現する、ということが、ほかのジャンル以上に求められるのではないかと思いました。

 今日はここまでにして、エピローグは明日読むことにします……。


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