絵葉書

 

 何を調べていたのかは記憶にありませんが、Amazonでおすすめされたこちらの作品を読みました。

 

その姿の消し方

 

『その姿の消し方』 

堀江敏幸:著

出版社の作品紹介ページ→新潮社

 

 美しい言葉やフレーズが、文学という海のなかをゆらゆらと揺れている。そのなかに浸っているのがとても心地よかった。そんな読後感でした。いくつも、胸に残る・響く言葉と出会えましたし。たとえば、こちらの「読むという行為」についての語り手の解釈というか、思いを綴った文章。

読むという行為は、これはと思った言葉の周囲に領海や領空のような文字を置いて、だれのものでもない空間を自分のものにするための線引きなのかもしれない。詩でも散文でも、この方向で答えを見出そうと読みを重ねているうち、差し出されている言葉のすべてが、しだいにいわくありげな、解釈につごうのよい顔つきになってくる。言葉が思念を誘い出すのではなく、こちらが言葉に幕を掛けたり外したりしながら錯覚を生み出そうとしているだけなのに、私たちはそれをしばしば高尚な読みと称して納得しようとする。

 読むということだけじゃなく、これは出版翻訳にもあてはまることなのかな、と感じました。翻訳をしているとき、作者が書いた言葉を読んで、無意識のうちに、自分の解釈にその言葉を、そして訳文を寄り添わせようとしているんじゃないかと。言葉のうしろにある(作者の、あるいは登場人物の)思念を読み取ろうと努力をするのですが、気づけばこちらの思念に言葉(訳文)を引き寄せようとしてしまっている。そしてその翻訳が活字になって、だれかの目に触れたとき、また同じことが起こるのでしょう。

 翻訳という行為は、翻訳者が原書を読むなかで得た錯覚(その言葉が当初書かれたときに、そこにあったであろう思念をつかんだという錯覚)に頼るしかない。あきらかな錯覚(誤訳)を避け、作品やその言葉の真意に限りなく近い錯覚を感じとるには、どうすればいいんでしょう。読めば読むほど、違う方向へと思念が離れていってしまうこともあるわけで……。本当に難しいです。

 

 この作品には詩が登場するのですが、それがまたなんともいえず、不思議な雰囲気と味わいを持っています。詩って、とっつきにくいな、と敬遠しがちなのですが、だからこそ、その言葉から感じる印象や感覚を素直に味わえる文学の形態なのかもしれません。言葉がそのまま体に入ってくる感覚が味わえます。


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