気づいたら、6月は記事を一度もアップしないまま、7月も後半へ……。いろいろと同時進行で、あっという間に時間が過ぎていきます。お盆まで、少々綱渡りなスケジュールで進めないといけないので、まったく気が抜けません。仕事の合間と、寝る前に本を読むのが、ここのところ唯一の楽しみです。オーディオブックなら電気消しても本が読める!と思い、寝る前読書にAudible、をやってみたのですが、寝落ちしてしまってダメでした……。

 

 そうこうしている間にも、積読本の山がちゃくちゃくと築かれていきます。ほんとうに、毎日膨大な数の本が出版されているので、まともにフォローしていると、おかしくなりそうです。出版翻訳という仕事をするうえで、本をたくさん読むことはもちろん大切なのですが、最近読書が(夏だけに?)サーフィンみたいになってる気がします。波がきたら乗って、おりて、また次の波がきたら、乗って……という感じ。それでも、心に残る作品はずっと残りますが、1冊の本をじっくり読むことで得られる何かを、逃してしまっている気がします。波の向こうにある、穏やかな海をゆっくり漂う、そんな読書が好きなんですよね、本当は。

 

 新刊の波にもまれて消えていく作品が多いなか、何年もコンスタントに売れ続け、時間をかけて重版になる作品もあります(最近、そういう話をよく聞きます)。一度読んで終わりではなく、繰り返し読みたくなる作品、そういう作品と出会えれば、5冊、10冊分の価値があるでしょうし、そんな作品を訳せたらいいなあ。

 

 もっと意識して、古い作品に目を向けてみよう。

 

波に立ち向かう犬

(波に乗るのもいいですが、越えればその向こうに新たな世界が待っている……かも?)

 クロスジャンルなコンテンポラリー・フィクションを読了。犬もちょこっとだけ出てきます。

 

Where the Forest Meets the Stars  by Glendy Vanderah

 

 主人公のジョアナは、博士課程で鳥類学を研究する、20代半ばの大学院生。幼い頃に父親を、そして最近母親をガンで亡くし、自身も同じ病で数年間、闘病していた。大きな手術を乗り越えたジョアナは、研究の遅れと、自身の人生を取り戻そうと、夏の間、大学が管理する田舎のコテージでひとり暮らしをはじめる。早朝から夕方まで鳥たちを観察し、データを集める日々を送っていたある日、ひとりの少女が姿を現す。「アーサ・メジャー」(Ursa Major=おおぐま座)と名乗った少女は、自分は遠い星からやってきたエイリアンで、「5つの奇跡」を見るまでは星に帰らないという。こうして、ジョアナと不思議な少女は出会い、ひと夏を共に過ごすことになるのだが……。

 

 宇宙からやってきた少女という、SFかファンタジーのような設定で、この物語はいったいどこに行くのだろうと、奇妙な感覚をおぼえながら読み進めました。心身ともに傷ついたジョアナの内面が中心に描かれているのですが、そこにアーサの謎と、同じくアーサと深くかかわることになる、コテージの隣人ゲイブのエピソードが絡んできます。ジョアナの人生に突然現れた「エイリアン」、アーサとは何者なのか? 終盤は完全にサスペンスな展開で、ミステリー、マジックリアリズム、ロマンスと、クロスジャンルな味わいのある作品でした。

 以前、似た雰囲気の作品を読んだことを思い出しました。

 

The Snow Child  by Eowyn Ivey

以前の記事→白銀のアラスカに現れた少女 "The Snow Child"

 

 こちらも、ある日不思議な少女が姿を現す、というストーリー。主人公が夫婦ですし、時代設定など背景はまったく異なりますが、少女の謎が明らかになっていくところや、主人公とのかかわり方などに共通点を感じました。

 

 コンテンポラリー・フィクションは、作品によってはあまりに「現実的」すぎて、読書で非日常体験をしたい気分のときは敬遠してしまうのですが、この作品はかなりファンタジックなので、最後までぐいぐいページが進みました。オーディオブック併用だったのですが、わりと淡々とした声の女性ナレーターで、抑えた語り口が作品にマッチしていてよかったです。あまり仰々しい演技だと、この作品の世界に入っていけなかったと思います。ただ、低い男性の声色にやや違和感が……こればっかりは仕方がないのかもしれません(男性ナレーターが女性を演じるほうが、違和感が少ない気もします)。

 

森と星

 白銀のアラスカが舞台の本を読みました。

 

 

(こちらの表紙も素敵)

The Snow Child  by Eowyn Ivey

 

 2013年ピューリッツァー賞フィクション部門の最終候補にもなっている作品です。50章以上という長さに読み切れるのか心配でしたが、読んでいくうちに先が気になって、気づいたら数日で読み切っていました。

 

 舞台は1920年代のアラスカ。子どものいない夫婦、ジャックとマーベルは、アラスカの開拓地に移住します。マーベルは死産を経験し、悲しみを抱えたまま、長い年月を過ごしていました。そこで、新天地で心機一転、人生を再スタートするつもりでアラスカに移住したのですが、過酷な自然や開拓の厳しさのなかで、夫婦の心はますます離れていきます。

 そんな重苦しい空気がただようアラスカでの生活でしたが、初雪が降ったある日、童心に返ったふたりはSnow Childを作ります。この子は女の子だと、赤いミトンとマフラーを着せてやるマーベル。すると、森の中に、赤いミトンとマフラーをまとい、透き通るような肌と青い目をした、金髪の少女が現れたのです。少女は、おとぎ話に出てくるSnow Maiden(ゆきむすめ)のように冬の寒さを気にすることもなく、野生の生き物のようにしなやかに、風のように森の中を駆け巡ります。

 この不思議な少女と夫婦との交流をベースに、マーベルの心の動き、そして強い女性へと成長していく過程が、美しい文章で語られた物語です。

 

 白銀のアラスカが舞台ということもあり、幻想的な雰囲気ではあるのですが、ファンタジーというよりもヒューマンドラマとしてわたしは読みました。少女はいったい何者なのか、というミステリーな要素もあります。過酷な環境で生きる人々の人生が丁寧に描かれており、自然描写も緻密で生き生きとしていて、とくに野生動物の描写には心奪われました。キツネ、オコジョ、ライチョウ、グズリといった、アラスカならではの生き物たちも登場します。

 

 家族や親子のあり方、生きるうえでの選択、何を大切にするかといった、根底にあるテーマはひじょうに普遍的です。ラストは余韻を残す終わり方で、好みが分かれるかもしれません。登場人物は少なく、それぞれがしっかりと描きこまれています。いろんな角度から読めるので、精読や読書会に向いている作品だと感じました。いちど、洋書の読書会をやってみたい……。

 

Snow Maiden

(雪は幻想的できれいですが、寒いのは苦手です……。)

天使

 

 書評サイトGoodreadsの"Dog"カテゴリーで、つねに"Most Read This Week"に表示されている作品があり、ずっと気になっていたのですが、お盆に読了しました。

 

Faithful  by Alice Hoffman

 

  ロングアイランドに住む女子高生のシェルビーは、ある冬の日、車の事故を起こし、一命はとりとめたものの、助手席に乗っていたヘレネは昏睡状態となってしまいます。シェルビーは罪悪感にさいなまれ、心に深い傷を負うのですが、そんなシェルビーが前を向いて生きていけるようになるまでを描いた物語です。

 

 事故のとき、シェルビーは「天使」の姿を見ます。自分は、天使に助けられた。でもどうして、ヘレンを助けてくれなかったのか。そんなシェルビーの心の叫びに答えるように、シェルビーのもとに、天使からメッセージが届くようになります。差出人不明の絵葉書が、一枚、また一枚と舞い込むのです。書かれているのは、いつも一言だけ。「気持ちを声に出すんだ(Say something)」というような。

 シェルビーは、思い切って家を出て、大都会のペットショップで働き始めます。シェルビーに人間らしい、温かい感情をよみがえらせたのは、犬であり、人でした。そして、絵葉書のメッセージに導かれるように、前へと進んでいきます。

 

 シェルビーが犬や猫を助ける場面が何度か出てきます。助け方はちょっと(というかかなり)強引。助けた犬の世話をし、命に責任を持つということが、シェルビーを立ち直らせるきっかけになったのでしょう。

 

 「奇跡」「天使」といったスピリチュアルな要素もありますが、あくまで、シェルビーというひとりの少女の再生と成長がテーマです。ヤング・アダルトのカテゴリーに入れてもよさそう。文体も平易で読みやすく、ストーリーはこびも安定しているので、少し長めの洋書にチャレンジしたい、一冊読み切ってみたい、という人におすすめしたい作品です。

模型の家

 

 原書を読みかけて、あまりの長さに挫折したこちらの作品、翻訳書で読了しました。

 

すべての見えない光

 

 最後のページを読み終わったとき、こう思いました。わたしは本を読むとき、物語のなかに「救い」を求めているのかなと。少なくとも、フィクションを読むときは、そこになにがしかの「救い」を感じることができれば、いい読書だったな、と振り返ることができる気がします。そしてこの作品もそうでした。戦争。早く大人にならざるを得なかった子どもたち。善人が善人のままでいられない時代。登場するすべての人物が、痛みとつらさを味わっています。その状況で、少女と少年が出会ったこと、少女が少年に助けられたこと、少年が少女を助けることができたこと、そのひとつひとつのエピソードが救いでした。とてつもなく悲しいけれど、ただ悲しいだけではない。ハッピーエンドではないけれど、主人公や登場人物たちが前を向いて終わる。わたしはそんな物語が好きです。

 

 これだけの長編なのに、無駄だと思える文章が一文もないのには驚きました。訳者の藤井光さんがあとがきで語られていますが、ひじょうに「磨きこまれた」作品です。執筆に十年を要したといいますが、言葉、文章、章立てのどれをとっても、作者のまなざしが行き届いている。物語には「炎の海」と呼ばれるダイヤモンドが登場しますが、ダイヤモンドの原石を切り出して、最も美しく見えるカットに仕上げるように、この作品も書かれた、そんな印象です。

 原書を読み切ることはできなかったのですが、翻訳書を読んでみて、原文の良さを余すところなく表現した、磨きに磨いた訳文だと感じました。原書、翻訳書ともに名作だと思います。

初日の出

 

 年明け早々、おもしろい本を読みました。

 

奇妙という名の五人兄妹

◆『奇妙という名の五人兄妹

アンドリュー・カウフマン:著 田内志文:訳

出版社の作品紹介ページ→東京創元社

 

 以前、同じ作者の作品(『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』)を読んだのですが、そちらも相当「奇妙」なお話でした。

 読み始めたときは、???という感じだったのですが、いつの間にか話に引きこまれていました。こういうシュールな作品はたぶん、いろいろな読み方があって、深読みしようと思えばいくらでもできるし、それはそれで面白いのですが、あまり難しく考えずに、ただ「不思議なお話だなぁ」と思って読むと、それだけで感じるものがある、そんな気がします。

 

 このお話では、両親の愛にあまり恵まれておらず、兄妹の仲もよいとはいえない五人の兄妹が、かなり強烈なキャラクターの祖母から、それぞれ「力」を授かります。ですが、恩寵となるはずのその「力」によって、反対に苦しい人生を送るはめになります。

この「力」から解放される方法がひとつだけある。それを知った五人が結集し、珍道中を繰り広げる、といったストーリーです。

 珍道中、という表現がふさわしいかどうかわかりませんが、わたしはかなり笑えました。作者のユーモアのセンス(そして、訳者・田内志文さんの絶妙な表現)と合うんでしょうか?

 

 テーマは「苦しみからの解放」という結構重くて暗いものなのですが、それを明るく表現するというのは、作者の筆力でしょうし、すごいことだなと思います。とにかく全編「普通じゃない」感じなのですが、それなのにすんなり読めてしまったのは、その奥に「ものすごく普遍的なこと」が書かれているからなんだと思います。親子、兄妹、夫婦と、いろんな家族の形が描かれているのですが、それがうまくいくのも、こじれてしまうのも、原因は同じ。平たく言えば、「愛」なんでしょう。

 愛があるか、ないか。愛がある(ありすぎる)せいで、うまくいかない場合もある。

 なんだか、物事ってとても逆説的だなと、この作品を読んで感じました。五人が授かった力にしても、祝福であるべきなのに、実際「呪い」になってしまっているし。

 

 この作品のいいところは、力から解放されたらそれで終わりじゃなく、そのあとも、ひと悶着あるところです。最後がなんともいえない。これでいいの? でも、これでいいんだ、と思わせてくれました。

 年の初めにこんなおもしろい本が読めて、今年はいいスタートが切れました!

たそがれの空

 

 今年に入って読んだなかで、いまのところ、一番「読んでよかった」と思った作品がこちら。

 

 

A man called Ove by Fredrik Backman

英語版出版社へのリンク→Simon and Schuster

 

翻訳書が出るだろうと期待していましたが、出版されたようです!

 

幸せなひとりぼっち

 

『幸せなひとりぼっち』

フレドリック・バックマン:著 坂本あおい:訳

 

 原書はスウェーデン語です。主人公のオーヴェは、妻に先立たれ、一人暮らしをしている、いわゆる頑固じいさん。言葉も態度も、決してやさしいとはいえないオーヴェのまわりに、なぜか人が集まってきて……という、笑いあり涙ありの心温まるお話です。(ラスト、泣けました……。)

 

 本国スウェーデンだけでなく、New York Timesのベストセラーリスト(ペーパーバック部門など)にも長期にわたってランクインしています。

 このヒットを受けてスウェーデンで映画化されたのですが(そして映画も大ヒット)、それがついに日本にもやってきます!

(邦題は『幸せなひとりぼっち』と、原題からかなりアレンジされた模様。)

 

 田舎県に在住なので、近くの映画館ではまず上映されません。都会に行ったときに(というかこれを観に行く目的で遠征して)ぜひ観なければ!

→結局、映画館には行けず、ネット配信で観ました。オーヴェもほかの登場人物も原作のイメージ通りで、とても楽しめました。

 

 

 これによく似た作品も、ひとつ読了しました。

 

The Curious Charms of Arthur Pepper by Phaedra Patrick

 

 本を紹介したオフィシャルムービー。

 

 主人公のアーサーは、オーヴェと同じく、妻を亡くしています。こちらも、いささか気難しいおじいちゃんです。

 オーヴェのほうは、近所が舞台なのですが、アーサーはイギリスからフランス、インドまで、世界を股にかけた大冒険をします。アーサーが亡くなった妻の遺品整理をしていると、美しい8つのチャーム(表紙にもあります)のついたブレスレットが見つかります。そしてこのチャームひとつひとつに、知られざる妻の過去が隠されていた、というなかなかドラマティックな展開です。

 御年70歳のアーサーが大奮闘する様子は、読んでいて楽しくもあり、せつなくもあり……。

 

 でもやっぱり、オーヴェのほうが「ジーンときた感」がありました。

 映画も公開されることだし、A man called Ove、もう一度読み返そうと思います。

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