最近、オーディオブックにはまっています。洋書は「聴きながら読む」スタイルが定着しつつあるのですが、そのきっかけとなったのがこちらの作品。

 

◆Sadie by Courtney Summers

 

 犬も動物もまったく出てこない本ですが、検索でひっかかって妙に読みたくなり、オーディオブックをダウンロード。一気に読んで(聴いて)しまいました。

 セイディという、10代後半の少女が主人公。父親が誰かも知らず、母親は薬物中毒という、家庭に恵まれなかったセイディは、年の離れた妹マッティを親代わりに育てることが生きがいでした。でも、そのマッティが何者かに殺されてしまい……。犯人を見つけ、自ら裁きを下そうと心に決めたセイディは、ひとり町を離れます。

 一方、ニューヨークの放送局のプロデューサー、ウェストは、事件とセイディのことを知り、追跡調査を開始。セイディの足跡を追い、出会った人たちにインタビューし、リアルストーリーとしてポッドキャスト番組にまとめて放送していきます。果たして、ウェストはセイディを見つけることができるのか……。と、セイディとウェストの視点が交錯しながらストーリーが展開。ジャンルとしては、YAミステリーといったらいいのでしょうか。

 

 唯一心の支えだった妹を亡くし、ひとり犯人を追うセイディは、もろいナイフのよう。自ら危険に飛び込んでいき、出会った相手を、そして自分をも傷つけてしまう。物語が進むにつれ、セイディがなぜ犯人を追うのか(もちろんマッティのためでもありますが)、本当の理由が明らかになっていきます。読み終わったあとも尾を引くというか、いろいろ考えさせられる作品でした。

 

 この作品のオーディオブック版、なんといってもキャスティングと構成がすばらしい! セイディは生まれつき吃音症なのですが、そのセイディを担当したナレーターの熱演には心を打たれます。また、ウェストが語りの章では、オリジナルのポッドキャスト番組を仕立てていて、オープニング曲まで流れるという、力の入れようです。誰かにインタビューしている場面は、ちゃんと「インタビューしている雰囲気」になっていたりと、随所凝った構成で、本物のポッドキャストを聞いているようでした。オーディオブックは、ひとりのナレーターがすべて読み上げる場合と、複数のナレーターがキャラクターを演じ分ける場合とありますが、この作品は後者です。

 専門家からの評価も高いようで、Audie Awards(アウディ賞:優れたオーディオブックに授与される賞)のYA部門等のファイナリストになっています。作品自体も評価されていて、Edgar Awards(エドガー賞)のベストYA部門にもノミネート。ぜひ、受賞してほしいと思います!

→Audie Awardsの2019年の受賞作品が発表され、"Sadie"がYA部門の最優秀作品に選ばれたようです!

 

sad girl

(本の表紙の女の子には顔がありません。顔がないのが、ストーリーを暗示しているように感じました。)

 

 オーディオブックは出版翻訳のお仕事をするときにも、名前とか固有名詞の発音など参考になることが多く、欠かせない存在になりました。わたしはAudible.com(アメリカ版)を利用しています。日本版(Audible.co.jp)を使ったことがないので、違いはよくわかりませんが、洋書のラインアップはやっぱりアメリカ版のほうが豊富な気がします。アメリカ版はメンバーになると、Audibleオリジナル・オーディオブックが毎月2本、プラスでダウンロードできる(その月のリストから2本まで選べる)というサービスがありますが、日本版はどうなんでしょうか?

コーヒーと本

 

 先日、出版翻訳を勉強している仲間に声をかけて、リーディング(原書を読んで、あらすじや感想をまとめたレジュメを作る作業)勉強会を開催しました。講師をお招きするコネもないので、参加者がめいめいレジュメを作成し、そのレジュメをたたき台に、各自プレゼン、コメントしあうという形式でした。

 やってみて感じたのは、とても勉強になった!!ということ。これまで、リーディングの通信講座なども受講してきましたが、やっぱり「リーディングは原書を読んでなんぼ、レジュメは書いてなんぼ」なんだなと実感。

 こうした勉強会という形で、締め切りを作ってリーディングをするというのは、実際の仕事に向けての予行演習にもなりますし、モチベーションの面でも大きな刺激になります。そして、自分のレジュメを誰かに実際に読んでもらうという行為は、いい意味でプレッシャーになります。さらに、ほかの人が書いたレジュメを読むと、「こういう風に表現すればいいのか」「こんな工夫もできるんだ」といういろんな発見があります。お互いのレジュメの良いところを真似しあって、次の自分のレジュメに活かしていく。本当に有意義な勉強会でした。

 今回の勉強会用に、わたしはこちらの作品でリーディングしました。

 

The Buried Book  by D. M. Pulley

 

 1952年夏。デトロイトに暮らす9歳の少年ジャスパーは、ある日突然、母アルシアに田舎の伯父の農場へと連れていかれる。「伯父さんの言うことをよく聞いて、いい子にしているのよ」そんな言葉を残して、母は姿を消した。以来、消息不明となったアルシア。なぜか警察も、その行方を追っているようだった。

 ジャスパーは、偶然見つけた母の古い日記を頼りに、母親の過去をたどりはじめる。そして、悲しみと汚れに満ちた大人の世界へと足を踏み入れる。違法行為、スキャンダル、殺人……。アルシアの身に何が起こったのか? ジャスパーは、母アルシアと再会することができるのか?

 

 という、少年ジャスパーを主人公とするクライム・サスペンスです。母を探すジャスパーが、悲しみと困難に立ち向かっていく様子が描かれていて、少年の成長物語としても読むこともできます。長めの作品ですが、テンポよく話が進むので、最後までわりとすらすらと読めました。

 本作の最大の特徴は、アメリカの農村の暮らしや先住民との関係など、時代的、文化的な背景が色濃く表現されているところ。とくにジャスパーが預けられた農場でのエピソードは、物語の強いアクセントとなっています。ストーリーの軸となる母アルシアの過去や、現在軸で起こっている犯罪事件に、居留区や先住民といった存在がからむという構図。白人に搾取される先住民という構図を下敷きに、先住民たちのやるせなさや憤りも描かれていて、物語としての深みも感じられました。

 

 主人公ジャスパーには、過酷な現実が突きつけられます。都会の生活からある日突然農場に放りこまれるという設定もそうですし、肉体的、精神的に傷つく場面がこれでもかと用意されていて、若干9歳の少年が受ける仕打ちにしては、ひどすぎるような気も……。ですが、ジャスパーがあらゆる困難を持ち前の賢さと機転、そして農場での生活で培われていく逞しさで乗り越えていく姿には感動を覚えました!

 ハッピーエンドというよりも、せつないラストです。でも、そういう余韻を残すところも、この作品のひとつの魅力といえるかもしれません。YAの愛読者にもお勧めしたい作品です。

 

 Amazon.comでも800件以上のレビューが寄せられているベストセラーなので(本作著者のデビュー作"The Dead Key"(2015)は、レビュー8000件以上で、星の平均4以上という高評価)、翻訳書が刊行されないかと密かに楽しみにしてましたが、どうやら出なさそう……。

荒野 

(渇いてますね……。)

 

 数日前に読んだ"Silent Child"はほぼ一気読みでしたが、こちらも面白かった!数日で読み切ってしまいました。オーストラリアを舞台とした、クライムサスペンスです。

 

The Dry by Jane Harper

 

 連邦捜査官のアーロン・フォークは、少年時代の親友ルークが亡くなったという知らせを受け、20年ぶりに故郷に戻る。ルークだけでなく、ルークの妻と幼い息子までもが亡くなっていた。再び故郷の土を踏んだアーロンの胸に、苦い記憶がよみがる。20年前、アーロンはこの町で起こったある事件の犯人として疑われたのだった。その過去の事件と、ルークの死の謎に、否応なく巻きこまれていくアーロン。焼けるような暑さと渇いた空気が、アーロンの思考を阻む……。

 

 プロットと伏線の張り方が絶妙で、完成度の高い作品でした。これがデビュー作というのはおどろきです。関係なさそうに見えるエピソードが、実は大きな意味を持つ。ミステリーにはよくある設定ですが、さりげなく、かつきちんと、推理に必要な事実が提示されています。読者に対する、作者のフェアな姿勢がうかがえます。謎解き部分で「あれって、これの伏線だったのね!」とわかったときは爽快感をおぼえました。

 主人公アーロンのキャラクターもよかった。連邦捜査官ですが、主に「お金」がらみの事件を担当しているようで、タフガイという雰囲気ではありません。といって、クールというわけでもない。強さよりも、やさしさ、誠実さが前に出ている、そんな人物です。捜査中も、結構ひどい目にあうのですが、感情をあらわにすることはほとんどなく、淡々と捜査を進めていきます。作中、アーロンの性格が「安定している(stable)」と表現されていましたが、まさにそうだと思いました。

 ただ、過去の事件のこともあり、他人に心をさらけ出せない、そんな暗い一面もあり、明るくわかりやすい主人公が好きな読者なら、ちょっといらいらするかも? アーロンの相棒となるラコというキャラクターもいい味だしています。人物を見抜く目を持っているようで、アーロンを信用に足りる人物と瞬時に判断し、友情を築いていきます。そんなふたりが、なかなか見抜けなかった真犯人。わたしは完全にノーマークでした……。作者に完敗!です。

 

 "The Dry"というタイトル通り、町も人も渇ききり、むき出しになる欲望や感情。この「干ばつ」という自然災害はストーリーに彩を添えているだけでなく、クライマックスで重要な意味を持ちます。こういう舞台設定のうまさも、評価が高いポイントではないかと思いました。

 

 

 本作の翻訳版が出版されました!

 

渇きと偽り

 

渇きと偽り 

ジェイン・ハーパー:著 青木創:訳

出版社の作品紹介ページ→早川書房

 Goodreadsで評判のよさそうだったこちらを読了しました。

 

Silent Child  by Sarah A. Denzil

 

 いわゆる「サイコ・スリラー」ものです。サイコ・スリラーといえば、『ゴーン・ガール』や『ガール・オン・ザ・トレイン』のイメージですが、こちらもやはり女性が主人公(『ゴーン・ガール』は夫婦)です。イギリス・アマゾンの"Crime、Thriller and Mystery"カテゴリーでは、ベストセラーリストのトップにあがっているということで、期待して読んでみました。

 

 主人公のエマは10代で母親となり、生まれた息子エイデンと、夫ロブと幸せに暮らしていた。だがエイデンが6歳のとき、エイデンが行方不明に。それから10年後、つらい日々を乗り越え、離婚、再婚を経て、エマは新たな人生を歩んでいた。出産を間近に控えた彼女のもとに、驚愕の知らせが入る。エイデンが見つかったというのだ。駆けつけたエマが見たのは、16歳になった息子の姿だった……。

 

 タイトルに"Silent Child"とありますが、10年ぶりに再会したエイデンは言葉を失っていた、という設定です。率直に「よくできたサイコ・スリラー」という印象を受けました。まず、舞台背景やキャラクター設定が明確で、登場人物の人数も多すぎるということもなく(翻訳ものにありがちな、この人だれだっけ?ということもなく)、すんなり読めました。

 読みやすいというのもよかったのですが、何といってもこの作品のおすすめポイントは、肝となる「ひねり」の巧みさです。思わず「おおっ」と声が出たくらい。話が7〜8割くらい来たところで、真相に迫る山場が設けられているのですが、そこで1回ひねりがあって、さらにもう1回、そして最後にもう1回ひねってくるという、隙のない展開です。最初のひねりは、そこまでの流れで「やっぱりこいつが犯人か〜」と落ち着きそうになるのですが、そう話は簡単に終わらないよと。

 その山場に来るまでの「煽り」(エマの感情の動きとか、エイデンの行動描写とか)も、これでもかというくらい緻密に描かれています。中間部の展開がやや遅い・重たい感じも受けましたが、終盤のテンポアップを際立たせるためのじらしと考えると効果はあったと思います。わたしはまんまと引っかかり、ギアチェンジしてからは怒涛の一気読みでした。

 

 マイナス点をあげるとすると、エマの人生が盛りだくさんすぎる点? 子供だけでなく、その直後に両親まで亡くし(両親についてはひねりに絡んでくるわけなのですが)、やっと立ち直って、再婚して、もうすぐ出産、というときに、死んだと思った子どもが現れて、身重の体でものすごいストレスにさらされるという……。最後なんて、陣痛が始まった体で格闘し、走り回ってるんですよ!? ちょっと無理があるような……。母は強しなのか?

 それと、真相に関わる重要な人物の影が薄かった点も気になりました。犯人が中盤以降にやっと出てくる(厳密には登場したとは言いづらい形で)人物で、キャラクターや内面描写がほとんどされておらず、ちょっとインパクトが弱かった。あと、個人的に読んでいて一番「感じ悪い」と感じた人物が、最後のひねりのところで一応の制裁を受けるのですが、いまいち釈然としない感も残りました(わたしはもうちょっと別の解決方法もあるんじゃないかと感じました)。

 

 余談ですが、暴力シーン(ほとんどなく、終盤に突然出てくる)が結構生々しかったのも印象的でした。エグイとかではなく、冷静に淡々と描写されているので、かえって怖かった……。まあ、それだけ作者の描写力が優れているという証拠なんでしょう。これが女性作家ならではなのかはわかりませんが、いままで読んだ女性作家のミステリーには、少なからず同じ傾向が見られたように思います。

 

川と町

(なんとなく、作品の舞台の雰囲気に似ていると感じました。)

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